その2 ごめんね、トムこれ以上トムを家に引き留めるのは無理かもしれない・・・

そんな思いが強まってきた8月下旬、できることは今のうちにしておこうと、動物病院へ予防接種を受けに連れて行く。
ボクの不在の期間、予防接種を受けさせていなかったらしいので。
無理矢理ケージに入れられ、病院であちこち触れたトムの怒りは頂点に達し、獣医さんにまで怒りをぶつけていた・・・
そのあと家に連れ帰ったのだが、その夜、帰宅するボクを待ち構えていたトムは、ボクがドアを開けるや否や、ボクの足元をすり抜けて飛び出していった。
これがトムとの別れとなった・・・・その後も毎日、トムを探しに出かけ、何度か姿を見かけた。
だが、ボクを見ると、また連れ戻されるのがイヤなのだろう、逃げてしまった・・・
トムは動物病院で世話になっている地域ネコの「チョコちゃん」と行動を共にしているようだった。
チョコちゃんとは、もう何年来の仲良し。トムが唯一心を許すネコなのだ。
そして、8月も終わりに近づく頃、公園の植え込みに入ってくトムを見かけたのを最後に、姿を見ていない。
あれから3ヶ月。
8月中旬に再会したとき、トムの激ヤセぶりに驚いた。
ずっと以前から肝臓の検査値が悪かったトム。
元気はあるのだが、食は細く、また、よく食べたものを吐いた。
知らないうちに病気が進行していたのかも知れない。
今年の夏は記録的な酷暑だった。
外での過酷な暮らしがトムの病状を悪化させ、命を奪ったのでは、ふとそう思うこともある。
トムはボクが初めて飼ったネコ。
台風が去った真夏の早朝、マンションのゴミ捨て場で、足にひどい怪我をしてうずくまっていた。
痩せっぽちで、汚くって・・・

やがて頑固でわがままな「おっさんネコ」になったトム。
でも、タビちゃんが子ネコを産んだとき、コマちゃんやメイちゃんが家に来たときは、
ちびっ子たちをとても可愛がってくれた。

ボクはトムのおかげでネコと暮らす楽しみを知り、かわいそうな野良ネコに知らん顔をできなくなったボクは次々とネコを拾ってくるようになった。
そのなかでボクの心のありようは変わり、人生が変わっていった。
トムがボクの人生を変えてくれた−ボクは本気でそう思っている。

もし死んでしまったのなら、せめて親友の「チョコちゃん」が看取ってくれたのだといいけれど・・・
どこかで生きているのなら、寒い思いをしていないだろうか、おなかを空かせていないだろうか
トムのことを思うとかわいそうでかわいそうで・・・・
すまなくってすまなくって・・・
今も、早朝ジョギングに出かけるとき、夜帰宅したとき、公園の暗闇をジッと見つめる。
不意にトムが姿をあらわすのではないかという淡い期待とともに。
でも、なにも出てきはしない。
そしてボクは心のなかでつぶやく
ごめんね、トム
ありがとうね、トム
(つづく)